化石の分子生物学
化石の分子生物学——生命進化の謎を解く(ISBN: 978-4-06-288166-1)
タイトルは分子生物学となっていますが、前半では DNA を抽出する話が主で、後半では分子進化の話が中心となっています。
化石から DNA を抽出というと、やはり避けられないのは映画「ジュラシックパーク」です。この映画の鍵は、琥珀に閉じ込められた蚊から恐竜の DNA を抽出して、それを元に恐竜を復元することです。この「化石の分子生物学」でも恐竜が繁栄していた時代よりは新しい時代のものではありますが琥珀に閉じ込められた昆虫から DNA を抽出する話が取り上げられています。さらに映画のように恐竜の血を吸った昆虫から DNA を抽出するのではなく、直接恐竜の化石から直接 DNA が抽出されたという話も書かれています。しかし本当でしょうか?
この本は構成が巧みで、DNA を抽出する方法や塩基配列を決める方法を簡単に紹介しながら、100 年位前の剥製からスタートして段々と古いサンプルの解析へと進めていきます。どんどんと時代を遡って古いサンプルから DNA を抽出できるようになる過程は爽快です。
断片的ではあるが恐竜の化石から DNA を抽出でき、DNA が不安定な分子だと思っていた認識を改める必要があるかと思い始めました。しかしここで急転直下、この恐竜のと思われた DNA は、超高感度な PCR を使ったためのエラーらしいということが明らかになります。そこでより新しい時代の結果を検証するとそれらの結果も怪しくなり、まるで歌詞の「三歩進んで二歩下がる」です。化石からは DNA を抽出するのは、不可能と決まったわけではありませんが非常に困難なようです。
化石から DNA を抽出して分子進化を探ることが難しい事が明らかになったので、後半ではその他の方法を紹介しています。
まず一般に見落とされているダーウィンの進化論の前提条件や分子進化の中立説についてわかりやく例を交えて説明していています。これを元に現在の生物の DNA から古代生物が持っていただろう遺伝子を推測する部分など、前半のような直接的な証拠が無く常に「ホントかな?」という一歩引いた感想を持ってしまいました。
関連書
- マンモスのつくりかた: 絶滅生物がクローンでよみがえる(ISBN: 978-4480860835)
- ネアンデルタール人は私たちと交配した(ISBN: 978-4163902043)